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山口地方裁判所下関支部 平成元年(ワ)182号 判決 1991年9月10日

原告

大野ミサ子

被告

サンデン交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告上田真悟は、原告に対し金四八万二二八七円及びこれに対する昭和六三年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告サンデン交通株式会社、被告上田照雄、被告上田房枝に対する各請求並びに被告上田真悟に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告上田真悟との間においてはこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告上田真悟の負担とし、原告と被告サンデン交通株式会社、被告上田照雄、被告上田房枝との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告に対し金二九〇万九八八一円及びこれに対する昭和六三年四月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、歩道から急に飛び出した歩行者を避けるため乗車中のバスが急制動して転倒し負傷した原告が、バスの所有者で運行供用者である被告サンデン交通株式会社(以下「被告サンデン」という。)に対し自賠法三条に基づき、歩道から急に飛び出した被告上田真悟(以下「被告真悟」という。)及びその親権者らに対し、民法七〇九条に基づき、また、被告真悟が責任無能力者である場合には、親権者らに対し民法七一四条に基づき、損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

西尾勇士(以下「西尾」という。)は、昭和六三年四月二四日午後五時三九分頃、下関市大坪本町一五番一六号福島方前路上を、被告サンデン交通株式会社が所有し運行の用に供するバス(山二二う二一―七七号、以下「加害車」という。)に乗客として原告を乗車させて右同所の通称金比羅交差点を山の田方面から下関駅方面へ向けて運転中、被告真悟が歩道から急に飛び出したため、加害車が急制動し、次のバス停で降車するため立つていた原告は転倒し、負傷した。

被告真悟は本件事故当時一三歳であり、被告真悟法定代理人親権者父兼被告上田照雄(以下「被告照雄」という。)及び同法定代理人親権者母兼被告上田房枝(以下「被告房枝」という。)は真悟の両親である。(以下、被告真悟、被告照雄、被告房枝の三名を「被告上田ら」という。)

原告は、強制保険から一二〇万円の損害の填補を受けた。

二  争点

1  被告サンデンは、本件事故は、被告真悟の急な飛び出しにより発生したもので、西尾にとつては不可抗力によるものであるとして被告サンデンの無責を主張し、仮に被告サンデンにも本件事故に対する共同不法行為責任があるとしても、被告サンデンを除く被告上田らの責任が多大であり、その負担割合は、被告サンデンは一〇分の一であると主張した。

2  被告上田らは、被告真悟は青信号に従つて横断歩道を横断していたものであるとして、事故の態様及び被告真悟の過失、被告上田らの責任を争う。

3  被告らは、原告の損害額を争い、過失相殺を主張した。

4  被告サンデンは、原告は、被告サンデンから装具代金一万八六〇〇円を受領していると主張した。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様について

1  証拠(甲一、二、一二、一三の一、二、一五、一六、乙一、二、証人西尾、被告真悟、原告各本人)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 西尾の運転する加害車は、右第二、一のとおり、金比羅交差点にさしかかつたが、時速は四〇キロメートルから四二、三キロメートルで、先行車があつて、二〇から三〇メートル位の車間距離をおいていた。交差点に進入する際の進行方向の信号は青色で、進入の直前に西尾は左右を確認したが、異常はなかつた。西尾は交差点を半ば余り進行した地点で、左前方約一五メートル離れた地点に駆け足で横断を開始した被告真悟を発見し、急ブレーキをかけ、加害車にはブレーキの故障等の欠陥や障害もなく減速して、被告真悟は加害車の直前を横断したが、ガードパイプがあつたため歩道上に上がれず反転し、停止直前の加害車に接触、転倒して負傷した。

金比羅交差点においては、加害車の進行方向の信号が青色表示の間は、被告真悟が横断した方向の歩行者用信号は赤色表示であり、加害車の進行方向の信号が青色から黄色表示に変化してから最大六三秒、最小五〇秒経過後に、右歩行者用信号が青色表示となる。

(二) 被告真悟は、金比羅公園から帰宅を急ぐ途中、走つてきて彦島方面から金比羅交差点にさしかかつたが、まず、交差点の彦島方面の横断歩道を山の田方面から下関駅方面へ走つて横断し、ついで下関駅方面にある横断歩道の所に来たがこれを行き過ぎ、横断歩道のさらに約三メートル下関駅側のガードパイプの切れ目から車道に出、左右の確認をする事なく、駆け足で、東駅方面に向けて横断した。

(三) 加害車には約三〇の座席があり、当時の乗客は一四、五人で空席もあり、原告は、加害車の中程の乗り口付近の座席に着席していたが、加害車の進行中に運転手席左後の両替機で両替を済ませ、座席の場所に戻つたが、次の停留所で下車する予定であつたため着席せず、いすの手すりに手を掛けた状態で立つていた。原告は加害車が急ブレーキをかけた瞬間にその衝撃で転倒し、その身体は回転するようにして加害車の前方に移動し、負傷した。事故当時、バスの中で立つていたのは原告のみであり、他の乗客には負傷した者はない。

2  なお、被告真悟は、本人尋問において、道路の横断を開始した際、進行方向の歩行者用信号が、青色点滅の状態であり、また、その際、同交差点に東駅方面から彦島方面に向け進入を開始していた車両もあつたと供述するが、右のとおり急いで走つて交差点にさしかかり、まず、彦島本面の横断歩道を山の田方面から下関駅方面へ横断し、ついで下関駅方面にある横断歩道を横断しようとすれば、当時青信号もしくは青信号点滅の状態であれば、右横断歩道を行き過ぎ、横断歩道のさらに約三メートル下関駅側のガードパイプの切れ目から車道に出て横断を開始したというのは、不自然であり、また、同交差点に東駅方面から彦島方面に向け進入を開始していた車両の存在についても、加害車においてこれとの衝突を避けたような様子も認められず、結局、被告真悟本人尋問の結果中、右1の認定に反する部分は直ちに信用できない。

また、証人西尾は、被告真悟は反対車線に信号待ち中の車両の間から飛び出してきたもので、その車はほろを付けていたので被告真悟の姿が隠れて同人が中央線付近に至つているのを初めて発見したとか、加害車と被告真悟は全く接触していないとか証言するが、実況見分の際の供述(甲一三の二)と照らし、信用できない。

二  被告サンデンの責任

右一に認定の事実によれば、加害車の運転者である西尾は、青信号で左右を確認して交差点に進入し、被告真悟が横断歩道横のガードパイプの切れ目から赤信号を無視して左右を確認する事なく駆け足で横断を開始したのをまもなく発見して急ブレーキを踏み直前で衝突を避けたものであるから、その急ブレーキの措置はやむをえなかつたものと認められ、それまでの速度、左右の確認、被告真悟の飛び出しの発見の時期等からも、運転について注意を怠つておらず、加害車にはブレーキの故障等の欠陥や障害もなく、被告真悟の右横断には過失があつたものというべきであり、被告サンデンは、自賠法三条により本件事故による損害賠償の責任を負うものではない。

三  被告真悟の責任

被告上田らは、被告真悟は青信号に従つて横断歩道を横断していたものであると主張するが、被告真悟には、右認定のとおり、横断歩道横のガードパイプの切れ目から赤信号を無視して左右を確認する事なく駆け足で車道に出、横断をした過失があり、これを避けるための加害車の急ブレーキの衝撃により原告が負傷したものであるから、被告真悟には、原告の損害を賠償する責任がある。

四  被告照雄及び被告房枝の責任について

原告は、被告照雄及び被告房枝の被告真悟の過失に対する監督義務違反を主張するが、被告照雄及び被告房枝は、常日頃から、被告真悟に対し、道路を横断するときには左右を必ず確認するように、また、信号のある場所では青信号で渡るように注意していた(被告房枝本人)ものであるから、本件事故当時一三歳である被告真悟に対する監督義務違反は認められない。

五  過失相殺について

進行中の車両は、必要に応じ、急ブレーキを踏むことも十分に予想されるところであるが、原告は、右認定のとおり、加害車の進行中に両替を済ませ、座席の場所に戻つたが、着席せず、吊革や手すりにつかまることもなく、いすの手すりに手を掛けた状態で立つていたものである。そして十数人いた他の乗客には負傷者はなく、原告において着席するか吊革や手すりをつかむなどしておれば、本件事故を防止もしくは原告の負傷の程度を軽くすることができたものというべく、これらの事情を考慮すると、公平上、被告真悟が原告に対し賠償すべき損害から、一割を減額することが相当である。

六  損害額

1  治療費(原告請求どおり) 六一万八五五五円

原告は、本件事故により、両肩打撲挫傷、右肩甲骨骨折、腰仙、背部打撲傷、第二、三腰椎骨折の傷害を負い、その治療のため、昭和六三年四月二四日から同年四月二七日まで下関第一病院に四日間入院、同年四月二七日から同年五月三〇日まで下関厚生病院に三四日間入院、同月三一日から同年九月一四日まで同病院に一〇七日間(実治療日数四二日間)通院した。(甲三ないし一〇)

2  装具(甲一七、原告本人、弁論の全趣旨) 一万八六〇〇円

3  入院雑費(一日一〇〇〇円、三八日間、ただし、昭和六三年四月二七日については二日分と認定) 三万八〇〇〇円

4  付添費(一日三二〇〇円、二二日間) 七万〇四〇〇円

原告の入院中、原告の娘らが付添や身の回りの世話をするなどしていたが、原告は入院ギブス床臥床絶対安静のため、昭和六三年四月二七日から同年五月一八日までの間二二日間、付添看護を要した。(甲四、原告本人)

5  診断書料(甲七、九、一〇) 九一〇〇円

6  休業損害 四七万九六六四円

原告は本件事故当時満六二歳でホテルメードとして就労し、毎月平均九万三〇〇〇円と年にボーナス二回五万円ずつの一年間一二一万六〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による入通院期間一四四日間就労できなかつた。なお、原告は、退院後会社から出勤の催促を受け、会社に迷惑がかかると思い、昭和六三年七月三〇日には退職した。(原告本人)

121万6000÷365(円未満切捨)×144=47万9664

7  入通院慰謝料 六〇万円

以上認定の諸事情を考慮すると、六〇万円をもつて相当と認める。

8  後遺症逸失利益、慰謝料

原告の本件事故による傷害は昭和六三年九月一四日症状固定し、朝起きにくい、腰部痛、正座ができない等の後遺症があり、掃除機をかけていて腰がいたくなるようなこともある(甲六、原告本人)が、原告は腰部痛のため作成したコルセツトもその後は使用しておらず(原告本人)、その後遺症の程度が、逸失利益や慰謝料を認めるべき程度の重度のものであることを認めるに足りる証拠はない。

9  右合計額一八三万四三一九円から右一のとおり一〇パーセントの過失相殺をすると、一六五万〇八八七円となる。

七  損害の填補 合計一二一万八六〇〇円

自賠責保険から一二〇万円(争いがない。)

被告サンデンから装具代金一万八六〇〇円(甲一七)

八  弁護士費用 五万円

本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑み、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は右のとおりをもつて、相当と認める。

(裁判官 加賀山美都子)

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